【RUB】新安値更新で正念場

 筆者にとって初めての海外旅行先は1990年のソ連だった。大黒屋光太夫(だいこくや・こうだゆう)のシベリア大陸横断を200年後に追体験した作家の椎名誠に感化され、自分も追体験しようと思ったのだ。新潟から空路ハバロフスクに入り、シベリア鉄道で1週間かけてモスクワを目指す旅だ。
 伊勢の船頭、大黒屋が1782年に江戸に物資を輸送する途中、時化(しけ)に見舞われてカムチャッカ半島まで漂流し、シベリア大陸を往復した末に日本に帰国するまでの出来事は、井上靖の小説「おろしあ国酔夢譚」にまとめられている。この小説の下敷きなった大黒屋の口述記録である「北槎聞略」にルーブリ、コペイカが出てくる。筆者はハバロフスク空港に到着後、日本円をルーブルに両替し、初めてルーブル紙幣を手にした。これが日本では考えられないような粗末な質の紙幣で、おまけにソ連製の安タバコか何かの嫌な匂いがこびりついており、出鼻をくじかれた気がした。
 当時は1ドル=0.53ルーブル、1ルーブル=260円であり、現在は1ドル=80ルーブル、1ルーブル=1円50銭程度。といっても、当時のルーブルと現在のロシアルーブルは呼称が同じであるだけで、通貨としての連続性はない。1990年代後半になるとロシアの財政は原油安やルーブル安の混乱にアジア通貨危機の余波が加わり、債務不履行(デフォルト)に陥った。いわゆる「ロシア危機」だ。その後、急激なインフレを経て、1998年1月に1000分の1のデノミを実施。この時に1ドル=8ルーブル、1ルーブル=17円となった。その後18年間で約10の1の価値に目減りしたことになる。
 さらに、原油の世界的な供給過剰を背景にルーブルは2014年12月に付けた79.17ルーブルを下抜け、今年1月21日には史上最安値となる85.96ルーブルまで一時下落。原油安を受けたルーブル安はなお続く見通しで、一部では財政危機の懸念がささやかれている。ただ、この前日にロシア中央銀行のナビウリナ総裁は、足元のルーブル安でも金融の安定性のリスクは見られないとし、為替介入をしない考えを表明している。原油輸出の収入をかさ上げする状態を維持しながら原油価格の反転を当局は待つ姿勢だ。
 ルーブルが貨幣として流通し始めたのは13世紀以降のことで、1534年にはロシアで統一的な通貨単位となった、世界でも屈指の古い通貨だ。歴史を生き抜いてきたルーブルは、2016年もしたたかさを見せてくれるだろう。

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