【JPY】円安は進めど

 国内政治情勢を考慮すると、日銀が追加金融緩和を実施するタイミングは、1月28-29日の決定会合以外になかったかもしれない。3月14-15日は、年度末を控え株価を押し上げることで企業の財務内容を良く見せるドレッシング効果、4月27-28日、6月15-16日は参院選を控えた市場対策と、いずれも安倍政権の意向を汲んだ露骨な政策運営と受け止められる可能性があったからだ。
 甘利明経済再生相辞任への社会的な関心をかき消すオマケもついた。安倍晋三首相が第1次政権時代に閣僚の不祥事をきっかけに退陣まで転落した経緯を踏まえれば、重要閣僚の「政治とカネ」の問題に幕を引くことを何よりも望んでいたに違いない。
 年初からの市場の混乱を受け、欧州中銀(ECB)は1月21日の理事会で一段の量的緩和に積極的なスタンスを示したほか、米連邦準備制度理事会(FRB)は引き締め姿勢をやや後退させた。こうした流れのなかで、日銀が追加金融緩和を実施するムードは醸成された。市場の混乱を収束させ、夏の参院選まで一気に乗り切りたい算段の安倍政権は、だからこそメディアを通じて日銀に圧力をかけ続けた。
 しかし、これまでのマネーの質・量的緩和から「新境地」のマイナス金利導入という政策転換に、日銀の苦慮がにじみ出る。金融政策決定会合では非常に珍しい5対4という評決は、役員や審議委員の中に議論の性急さがあることを浮かび上がらせた。困惑した市場は、今後時間をかけて消化していくことになるだろう。
 日銀が導入を決めたマイナス金利は、日米金利差によるドル高・円安への誘導が最大の目的だ。それによって安倍政権の生命線である株価を押し上げる効果を狙っている。だが、会合後の東京株式市場でみられたように、収益に悪影響が見込まれる金融セクターは売られた。金融株は日経平均株価への寄与度が高いため、これまでのように円安・株高につながらないとの見方が広がっている。
 株価が想定通りに上昇しなければ、ドル高・円安は限定的になる。それでも、乾いた雑巾を絞るように、日銀は株高を支え続ける政策を実施していく方針だ。そうでなければ、日銀による政策の手詰まり感を見透かした海外勢が日本売りを強める可能性があるからだ。なお、消費者物価2%上昇の目標達成時期は従来の2016年度後半から17年度前半に先送りされた。2018年3月までの黒田東彦総裁の任期を念頭に置いた決定だろう。日銀はついに白旗を挙げた、と筆者は理解した。

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