【AUD】潜水艦受注にみる豪ドルの危うさ

 オーストラリア政府が次期潜水艦の共同開発相手に有力候補だった日本ではなく、フランス企業を選定した。これは、今後のアジア・太平洋地域における日米豪の戦略的協力構想に懸念を強めていた中国への配慮とみるのが最も現実的だろう。
 日本にとってオーストラリアは、政治経済はもちろん、広範囲にわたり米国同様に重要な国だ。日本は第1次安倍内閣時代の2007年3月、オーストラリアとの間で包括的な戦略関係を構築する目的で日豪安保共同宣言に署名した。戦後、日本が米国以外と安全保障に関する関係強化を明文化したのはこれが初めてのケースだ。それだけに潜水艦受注案件は、安全保障・防衛協力を深める上で不可欠だった。
 「日本落選」の発表は4月26日だが、11日前の今月15日、オーストラリアのターンブル首相は北京を訪問し習近平国家主席と会談。両首脳は会談後、両国の戦略的発展関係をさらに強めることで一致している。南シナ海を軍事拠点としたい中国が、日本とオーストラリアの関係に横やりを入れ、それが奏功したと見るべきだろう。
 アボット前首相は安倍首相との緊密ぶりが日本のメディアで盛んに報じられていたが、オーストラリアが中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を決めたのはアボット政権の時だ。オーストラリアは日本との関係を重要視しているのは事実だが、あくまで中国と両にらみの戦略を採ってきた。ターンブル政権もその路線を引き継いでいる。
 オーストラリアが中国との関係を強めてきたのは、2008年のリーマン・ショックで2009年には国内経済が1%台の低成長に落ち込んだが、中国の台頭によって短期間で回復を遂げたためだ。この年に輸出国別で中国が日本を追い抜いた。今や中国抜きでオーストラリア経済は成り立たないといっても過言ではない状況となった。中国の経済指標が豪ドルの売り買いの判断材料となるのはこのためだ。
 潜水艦受注の決定は、ターンブル政権による7月の総選挙をにらんだ雇用対策といった側面はあるだろう。同時に、中国がアジア・太平洋地域の軍事戦略を優位に進めるために暗躍し、潜水艦受注で日本落選に追い込んだとのシナリオは、さもありなんというべきか。しかし、中国の依存度を高めるほどオーストラリアには危うくなる点もある。
 中国の経済指標はこれまでも正確性に関し疑念が指摘されてきたが、今後はますますその度合いが強まるかもしれない。タックスヘイブン活用の資産隠しを暴露した「パナマ文書」で習近平国家主席の関与が取りざたされるなか、国民の目を逸らすために経済指標を改ざんし、操作する可能性がある。中国は「報道の自由度」や「政治の腐敗度」、「民主化度」などで常時下位にランクされるだけでなく上海総合指数の不自然な値動きなどから、そのようなことが起こりうるとみている。
 そして、何かをきっかけに中国経済に関し公式発表との落差が明らかになってしまった場合、外為市場では豪ドルの暴落を覚悟しておかなければならないだろう。

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