【USD】「有事」のドル買い?

 アメリカのシリアへの軍事攻撃をきっかけに、国際情勢は急速に不透明感が広がり始めました。アサド政権と関係の深い北朝鮮もトランプ政権の攻撃対象とされ、東アジアの緊張感も高まっています。こうした状況下でよく「有事のドル買い」といわれますが、アメリカの「有事」への関わり方がドルの値動きの方向を決めているようです。
 4月6-7日にアメリカ・フロリダ州で行われた米中首脳会談は、1月に就任したトランプ大統領と習近平国家主席との初顔合わせで、アメリカから中国への要求として人民元安政策の是正と北朝鮮に対する制裁、の2点が注目されました。お互いに相手の考えを理解しようと腹を探り合う状況のなか、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が中国に対して力を見せつける演出だった可能性があります。国際情勢の不安定化は、こうしてトランプ大統領がパンドラの箱を開けたのです。
 その後の金融市場は地政学リスクへの意識から警戒の円買いが強まり、ドル・円は昨年11月18日以来、約5カ月ぶりに節目の110円を割り込みました。外為市場関係者が下値メドとして注目していた「トランプ・ラリー」の半値付近である109円90銭も下回り、今年1月に付けた高値118円60銭をピークとした調整トレンドが鮮明になっています。
 リスク回避の円買いは、こうした状況下では常識的な動きですが、ポンド買いも少し目立ちました。欧州連合(EU)離脱を決めた昨年6月のイギリスの国民投票後、ポンド・ドルは1.50ドル付近から急落しましたが、その「後遺症」から足元も1.24ドルの低水準で推移しています。EU離脱交渉入りでアク抜けし、イギリス経済の回復基調を背景に早期利上げへの期待も出始めたため、割安感によって買い戻されたのかもしれません。世界が複雑化しているため、状況によってはこうした動きもみられます。
 「有事のドル買い」は、世界的な混乱が起こった場合に必ずいわれます。有事の際に外為相場はどのように変動するか読み切れないものの、基軸通貨として国際的に信頼でき流動性の高いドルを買えば安心という経験に基づいて広がった格言です。ただ、アメリカ本土内で発生した2001年9月の同時多発テロや、アメリカが震源となった2008年9月のリーマン・ショックの時にはドルは売られています。このように、「有事」でもドルは買われなくなっています。
 では、ドルの信頼は低下したのでしょうか。イギリスの国民投票では、円の次に買われたのがドルでした。この時、ドル・円は106円後半から99円付近まで8%程度急落しましたが、ポンド・円が160円前半から133円前半まで20%も下落したのに比べれば、小幅と言えるでしょう。混乱の中心がアメリカでない場合には、やはり「有事のドル買い」は続いているようです。しかし、シリアや北朝鮮への軍事攻撃の場合は「アメリカ主導の有事」なので、ドル買いにならないと考えられます。
 トランプ政権が発足してからまだ3カ月しか経過していませんが、南シナ海の領有権問題や中東政策などで今後もアメリカと関係国との「有事」が予想されます。米連邦準備制度理事会(FRB)の年3回の利上げはほぼ織り込まれているものの、国際情勢が不安定化すれば残り2回はわからなくなってきました。その意味で、長期ドル安トレンド入ったと見ることができます。

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