【CAD】トランプ大統領の「征加論」

 世界最大級の貿易規模を誇るアメリカとカナダ。外交関係では相互に不可欠な存在と認め合う両国が、通商問題で対立しています。不均衡貿易の是正に乗り出す一方、従来の北米自由貿易連合(NAFTA)体制を維持する姿勢を示すなど、アメリカ側の混乱が目立ちます。
 アメリカ政府は4月25日、住宅用のカナダ産の針葉樹製材が、カナダ政府の補助金を受けアメリカで安く販売されているとして、この木材を輸入する際に最大24.12%の相殺関税をかけるとの方針を決めました。これに対しカナダ側は、アメリカの対応が懲罰的で不当と強く非難し、両国の貿易摩擦に発展する可能性が広がりました。
 トランプ大統領は就任前から不均衡貿易の是正を公約に掲げ、NAFTAに関してはアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国による再交渉を主張してきました。特に、メキシコに対しては630億ドル(2016年)にのぼる貿易赤字の改善を目指し移民政策にも議論を広げ、対決姿勢を鮮明にしてきました。
 一方、トランプ大統領は就任直後にカナダのトルドー首相との会談に臨んでいます。この会談が友好ムードに包まれたことから、NAFTAの再交渉は主にメキシコを念頭に置いたもので、貿易赤字112億ドルのカナダへの対抗措置への警戒は後退した、というのが市場コンセンサスでした。しかし、カナダが最近、アメリカ産乳製品の一部の輸入を制限したことから、アメリカ側は報復的な措置を打ち出しました。
 アメリカとカナダは、例えばオバマ政権がキューバやイランとの国交正常化を進めるにあたりカナダが仲介役を果たすなど特別な間柄に見えますが、通商上は対立する場面もよくあるようです。カナダ産輸入木材の関税問題は、複数ある通商摩擦のうち代表的なもので、これまでも対立と調停が繰り返されてきました。今回トランプ政権も政策運営の行き詰まりから「お馴染みの」カードを切ったとの印象を受けます。
 アメリカは自由経済主義から保護貿易主義に舵を切り、孤立化の道を歩み始めています。カナダからみて、アメリカは単に北米大陸の隣国どうしという地理的条件のほか人種、言語、文化も近く、それゆえ密接な関係を維持してきました。しかし、政権基盤がぜい弱なトランプ政権下で、アメリカは今後も折に触れカナダへの風当たりを強める可能性はあるでしょう。
カナダも、そんなアメリカとの付き合い方を変えていくと思われます。過去を振り返ってみると、1971年の「ニクソン・ショック」でアメリカが新しい輸入品の10%課税を柱とした経済政策を打ち出した際、ピエール・トルドー首相(当時、現首相の父)政権下のカナダは、貿易の多様化を盛り込んだ「第3の選択」でアメリカ依存の通商関係を転換させました。現首相も同様に、アメリカへの依存度を引き下げた貿易体制を目指すことになれば、カナダドルの値動きもそれに影響を受けるかもしれません。

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