【GBP】英「労働党政権」でポンドは?

1カ月あまり前、イギリスのメイ首相が電撃的に総選挙を決めた際、与党・保守党は最大野党・労働党との支持率を20ポイント超も引き離しており、圧勝が予想されていました。しかし、このところ労働党が急激に追い上げ、選挙を1週間後に控えた現在、支持率の差はわずか3ポイントになっています。一部の調査で保守党の過半数割れが観測されるなど、選挙結果が俄然楽しみになってきました。

マニフェスト発表で保守党圧勝ムードが一変

独走態勢とみられた保守党が失速し、党内分裂ぎみだった労働党が猛追している背景には、両党のマニフェスト(政権公約)の明確な違いがあります。中でも、社会保障政策に関し、保守党の高齢者介護に関する提案が介護費用の自己負担を増やすとして、高齢者やその家族からいっせいに批判され、撤回に追い込まれたのは、メイ氏にとって手痛い誤算でした。
保守党は欧州連合(EU)離脱をめぐり「ハード・ブレグジット」を選択し、EU側に対して有利な交渉を進めるとの触れ込みで選挙を戦うはずでしたが、年金制度や国民保険サービス(NHS)を含む社会保障問題が一大争点となってしまい、労働党の躍進を許している状況です。これはサッチャー元首相(保守党)以来、新自由主義を根幹として「小さな政府」を目指す同党の経済政策を反映しています。
一方、労働党のマニフェストは、伝統的かつ典型的な左派政策を柱とし、「民主社会主義者」を自認する同党のジェレミー・コービン党首の主張を反映させたものになっています。鉄道や郵便など交易事業の再国有化、法人税率引き上げや高所得層の上位5%への増税、大学授業料の無償化、労働者のゼロ時間契約の廃止などを掲げています。
EU離脱に関してはEU単一市場と関税同盟から得る便益を維持する「ソフト・ブレグジット」を主張しています。これについて金融市場の一部から、労働党政権下での穏健なブレグジットならポンドのポジティブな反応につながる、との見方も出てきました。

労働党は惨敗の教訓からより左寄りに

保守党が圧勝した2年前の総選挙では、デイビッド・キャメロン首相(当時)に労働党はエド・ミリバンド党首が挑みましたが、結果は惨敗。その前年のスコットランド独立の是非を問う住民投票の余韻を残したスコットランド国民党の大躍進もありましたが、労働党の最大の敗因はミリバンド氏がトニー・ブレア氏やゴードン・ブラウン氏(いずれも元首相)に近い政策を打ち出したことでしょう。保守党の緊縮財政に対し、労働党もソフトな緊縮財政といった内容で、支持者をがっかりさせました。
この選挙の後に党首を引き継いだコービン氏は、党内でも「極左」に位置づけられていますが、今回のマニフェストは若年層を中心に急速に支持を広げているもようです。特に、低賃金の職種で浸透している非正規雇用の「ゼロ時間契約」について、2年前ミリバンド氏は「規制の導入」を訴えましたが、今回は「廃止」に踏み込んでいます。
ゼロ時間契約とは、最低労働時間が保証されず、必要な時間のみ就労するという不安定な雇用形態です。社会保障費や解雇手当もないため、人件費を極限まで抑えられるため、企業にとっては都合のいいシステムで、個人の人権を度外視した新自由主義がもたらした現代の奴隷制度といえるでしょう。

人権問題が隠れた争点か

新自由主義を経済政策に取り入れた先駆者は、先進国ではイギリスのサッチャー政権でした。労働者のサボタージュが蔓延していた1970年代のイギリスの刷新には効果的でしたが、現在は貧富の差は拡大の一途をたどるなど、その弊害が目立ちます。大企業・富裕層優遇の保守党と、若年層や弱者を守る労働党の構図が鮮明になるなか、コービン党首の労働党が勝利を収めても不思議はありません。
仮に労働党が政権を奪還した場合、財政は拡大するものの、非正規雇用の労働者の生活が安定するため消費の改善が見込まれます。また、公的セクターの関連株が買われることでポンドは底堅い値動きになる可能性もあります。

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