【SAR】ムハンマド・ドリフト

サウジアラビアの政治情勢が、市場参加者の不安を増幅させています。81歳のサルマン国王がその実子で32歳のムハンマド皇太子に権限を委譲するプロセスで、王族内での対立が激化すれば、強権的な若き皇太子への反発は必至の情勢です。

「ビジョン2030」は早くも破たんか

11月初旬、サウジではムハンマド皇太子を中心に新設された「汚職対策委員会」が王子や閣僚、元閣僚数十人を拘束したとのニュースが伝わり、市場の注目を集めています。当局はその後、リヤドのリッツカールトンホテルに幽閉した汚職容疑の王子などと和解交渉を開始し、汚職で得た資産を引き渡せば釈放するとしているようです。報道では、2015-16年の原油安による財政赤字の穴埋めが狙いとみられています。
実際、サウジの国内総生産(GDP)成長率は今年1-3月期が-0.5%、4-6月期は-1.0%と悪化しており、非石油セクターの伸びも低調のようです。ムハンマド皇太子を中心に2016年4月に作成した2030年までの改革プラン「ビジョン2030」では、GDP規模について現在の6500億ドルで19位ですが、15位のメキシコのGDP1兆500億ドル、14位のスペインの1兆2300億ドルへの拡大を目指していますが、早くもとん挫がささやかれています。

サルマン国王就任時から内紛の兆し

サウジの近代化を進めようとしていたファイサル国王が1975年に暗殺されると、同国では厳格なイスラム主義が強まりました。ムハンマド皇太子は先月の投資家向けの会合で「穏健で開かれた国」に変革する考えを打ち出しています。女性の自動車運転許可もその一環とみられます。足元の「汚職撲滅」に関しては、長年にわたる有力者の腐敗に怒りを募らせていた多くのサウジ国民から支持を得ているようです。
反面、サルマン国王に関しては巨額の資金を私物化しているといった、王族関係者でなければ入手困難な有力情報がネットを通じて流出し、現政権への批判も強まっています。政治的経験や実績の乏しい実子のムハンマド氏が昨年国防相、副皇太子に、そして今年皇太子と次々に要職に就き、事実上の国王の権限を手に入れたことに対する嫉妬なども当然あり、今後は王族内での対立激化や反乱も予想されます。

サウジ国内に広がる不安定化

産油国の協調減産で原油価格が持ち直し、サウジアラビアリヤルのドルペッグ制廃止論議が聞かれなくなりました。しかし、原油安の影響と権力争いが結びつき、サウジは不安定化に向かっています。今年5月にアメリカのトランプ大統領が就任後初の外遊として中東を訪問以来、地域内は親米・反米に分断されつつあり、反米のイランに近いカタールは6月にサウジなど湾岸諸国から国交を断絶され、その後も険悪な関係が続いています。
「サウジ・ドリフト」という言葉をご存知でしょうか。10年ほど前から、サウジの王族の一部による無謀で危険なドリフト運転を意味します。大事故を引き起こすケースもみられ、サウジ国内での交通事故は増加の一途をたどっているようです。ムハンマド皇太子による「改革」という名の粛清は、ドリフト運転のようなものではないでしょうか。どのようなハレーションを引き起こすか、注視が必要のようです。

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